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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)1317号 判決 1958年12月08日

原告 田村つる子

右代理人弁護士 松井城

右復代理人弁護士 北河安夫

被告 井上秀一

被告 堀内富太郎

右両名代理人弁護士 大川進太

被告 宮地邦明

主文

被告宮地は、原告に対し、別紙目録記載の土地について、大阪法務局北出張所昭和三一年一二月一八日受付第二五六三五号をもつてなされた同月十五日付代物弁済予約による所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をなせ。

原告の被告井上、同堀内に対する各請求を棄却する。

訴訟費用中、原告と被告宮地との間に生じた分は同被告の負担とし、原告と被告井上、同堀内との間に生じた分は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原告に対し、別紙目録記載の土地について、(1)被告井上は、大阪法務局北出張所昭和三十年十月四日受付第二四〇一七号をもつてなされた昭和二十九年三月三日付代物弁済による所有権移転登記の、(2)被告堀内は同出張所昭和三十一年十二月十八日受付第二五六三四号をもつてなされた同月十五日付売買による所有権移転登記の、(3)被告宮地は同出張所昭和三十一年十二月十八日受付第二五六三五号をもつてなされた同月十五日付代物弁済予約による所有権移転請求権保全仮登記の各抹消登記手続をなせ。被告堀内は原告に対し、右土地を明渡せ。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

「(一)別紙目録記載の土地(以下本件土地という。)は、もと訴外酒井ヤクの所有であつたところ、被告井上はかねて右訴外人に対し金百万円の貸金債権を有しており、その債権担保のため、昭和二十九年三月三日本件土地につき順位第一番の抵当権設定を受け、同月八日その旨の登記を経由した。しかし、右訴外人は、右債務を履行しなかつたので、被告井上は、右抵当権の実行として大阪地方裁判所に本件土地の競売申立をなし(同庁昭和二十九年(ケ)第二七八号不動産競売事件)昭和二十九年八月十六日競売開始決定がなされ、同月十八日競売申立の嘱託登記がなされた。

(二) 原告は右競売事件の競売期日である昭和三十年十月二十日、金二十七万一千円で最高価競買人となり、同日保証金として金二万七千百円を納付し、次で同月二十二日競落許可決定がなされ、該決定は確定し、これが競落代金の支払期日は同年十一月二十八日と定められたが、原告は前期日には残代金を納付しなかつた。

(三) 一方被告井上は、右競落許可決定後である昭和三十年十一月五日単独で前記競売申立書を前記裁判所に提出した。けれども原告は同年十二月二十六日競落代金の残額金二十四万三千九百円及び右支払期日である同年十一月二十八日から同年十二月二十六日まで年五分の割合による遅延利息金千二百十円以上合計金二十四万四千九百二十円を同裁判所に納付すべく現実に提供したが同裁判所は、これが受領を拒絶したので、原告はその頃、これを大阪法務局に弁済供託しようとしたが同法務局もこれを受理してくれなかつた。

(四) そこで、原告は、同年十二月二十七日右裁判所に執行方法に関する異議の申立をなしたところ、同裁判所は、昭和三十一年二月六日前記競売申立の取下を有効として右異議申立却下の決定をなしたので、同年二月十四日大阪高等裁判所に即時抗告をした結果、同高等裁判所は、同年九月二十八日前記競売申立取下は無効であるとして、「原決定を取消す。大阪地方裁判所昭和二九年(ケ)第二七八号不動産競売事件はこれを続行しなければならない。」旨の決定をなし、該決定は、同年十一月十三日原告及び被告井上に送達せられ、その頃確定した。

(五) よつて、原告は昭和三十二年三月四日競売裁判所である大阪地方裁判所に前記残代金と遅延利息との合計金二十四万四千九百二十円を納付し、もつて、本件土地の所有権を取得した。

(六) ところで、右裁判所は、前記異議申立後である昭和三十年十二月八日前記競売申立取下を原因として、本件土地につき競売申立登記の抹消登記の嘱託をなし、昭和三十一年一月十四日右抹消登記がなされた。けれども前記大阪高等裁判所の決定により右取下は無効であるとせられ、前記不動産競売事件は続行せられることになつたので、右抹消登記は無効であるというべきである。

(七) しかるに、被告井上は、右抹消登記のなされたのを奇貨として、本件土地につき、昭和二十九年三月三日付代物弁済を原因として、昭和三十年十月四日前記請求趣旨記載(1)のように訴外酒井ヤクより所有権移転登記を受け、被告堀内は、昭和三十一年十二月十五日付売買を原因として、同月十八日右請求趣旨記載(2)のように被告井上より所有権移転登記を受け、更に、被告宮地は、昭和三十一年十二月十五日付代物弁済予約を原因として、同月十八日主文第一項掲記のように被告堀内より所有権移転請求権保全の仮登記を受けた。

(八) そして、被告堀内は、被告井上から本件土地を買受後これを占有して現在に至つている。

(九) けれども、前記のように本件土地については、前記競売事件において競売開始決定がなされ、その後昭和二十九年八月十八日競売申立の登記がなされた以降は差押にかかるものであつて、所有者である訴外酒井ヤクにおいてこれが処分行為をなすことはできないわけである。されば、本件土地につき、右訴外人から、被告井上に対する前記代物弁済による所有権移転行為及びこれを原因とするその旨の登記はいずれも無効であり、従つて、被告井上から被告堀内に対する前記売買及びこれを原因とする所有権移転登記、更に被告堀内から被告宮地に対する前記代物弁済予約及びこれを原因とする所有権移転請求権保全の仮登記はいずれも無効である。

(十) ところで原告は前述のように、前記不動産競売事件において本件土地を適法に競落し、その所有権を取得したものであるので、被告らに対し、右各登記の抹消登記手続を被告堀内に対し本件土地の明渡を求めるため本訴請求に及んだ次第である。」

と述べ、

なお、被告堀内、同宮地に対する予備的請求原因として

「仮に、被告堀内、同宮地に対する原告の前示請求原因にもとずく請求が理由ないとするも、被告井上は、本件土地の競落人である原告が大阪高等裁判所になした前示抗告申立により同裁判所のなした前示決定正本を昭和三十一年十一月十三日送達を受けるや非常に驚き、不法に自己の権利を保護するため、被告堀内、同宮地と通謀の上、同年十二月十八日前示請求の趣旨のように本件土地につき被告堀内は売買による所有権移転登記を、被告宮地は代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由したものであるところ、右はいずれも、通謀虚偽表示によるもので無効である。故に、この点からしても、原告の被告堀内、同宮地に対する本訴請求は正当である。」

と述べ

被告井上、同堀内の抗弁に対し

「(1) 右被告らの抗弁事実中、被告井上と訴外酒井ヤクとの間に同被告ら主張の代物弁済予約が成立したこと、被告井上が右代物弁済予約完結の意思表示をしたことは争う。

(2) 仮に被告井上、同堀内主張のように被告井上と右酒井との間に右代物弁済予約が成立したとするも、右成立の際、被告井上と酒井との間において、同被告が被担保債権の履行を求めるため同時に設定された本件抵当権の実行に着手したときは同被告の有する右代物弁済予約の完結権は消滅する旨の特約がなされていたところ、同被告は昭和二十九年八月頃右抵当権の実行として、大阪地方裁判所に本件競売の申立をしたから、右特約により、右代物弁済予約完結権は消滅したわけである。

(3) 仮にそうでないとするも、被告井上は右抵当権を実行し得る権利と代物弁済予約完結権との二個の権利を有し、両者はいわゆる選択債権の関係にあるものであるところ、被告井上は前示のように抵当権の実行を選択して競売の申立をしたから代物弁済予約完結権はこれにより当然消滅したものというべきである。

(4) 仮にそうでないとするも、被告井上は昭和二十九年三月三日本件土地につき酒井との間に代物弁済予約をなしたものである。しかるに、登記簿上は、本件土地につき、同被告のため右同日の代物弁済を原因として昭和三十年十月四日所有権移転登記がなされている。けれども被告井上が代物弁済予約完結権を行使した日時は、右登記のなされた昭和三十年十月四日かもしくはその前数日であるはずである。そうすると、右代物弁済のなされた日は明らかに昭和二十九年三月三日ではない。従つて右登記は事実に符合しない無効のものであるというべきである。

(5) 仮にそうでないとするも、前述のように、被告井上が代物弁済予約完結権を行使した日時は昭和三十年十月四日か、もしくはその前数日であるべきところ、当時本件土地は本件競売事件において、競売手続中の差押物件であり、従つて、所有者である酒井ヤクにおいてこれが処分行為をなし得ないものであつたから、被告井上において右酒井から代物弁済により所有権を取得するに由なく、右代物弁済による取得は無効である。」

と述べ

立証として甲第一ないし第八号証、第九号証の一及び二、第十号証を提出し、証人酒井保の証言、被告井上本人尋問の結果を援用した。

被告井上、同堀内両名訴訟代理人は「原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

答弁として

「原告主張の(一)(二)の各事実、同(三)の事実中、被告井上が原告主張の日にその主張のように、単独で競売申立の取下書を競売裁判所に提出したこと、同(四)の事実中、冒頭より大阪高等裁判所が原告主張のような決定をなしたまでの事実、同(六)の事実中、原告主張の日、本件土地につき、その主張のような競売申立登記の抹消登記がなされたこと、同(七)の事実中、原告主張の各日、その主張の各原因による各登記がなされたことは、いずれもこれを認める。被告堀内に対する予備的請求原因事実中、原告主張の各登記がその主張のように通謀虚偽表示によるものであることは否認する。」

と述べ、

抗弁として

「被告井上は原告主張のように昭和二十九年三月三日訴外酒井ヤクから右訴外人が被告井上に対し負担していた原告主張の債務担保のため、本件土地につき順位第一番の抵当権の設定を受けた際右訴外人との間において右訴外人が弁済期に右債務を弁済しないときは被告井上は右債務の代物弁済として本件土地所有権を取得しうる旨の代物弁済の予約をなし、同月八日右予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。その後右訴外人が債務の弁済をしなかつたので、被告井上は、本件土地につき一旦抵当権の実行として競売の申立をなし、同年八月十六日競売開始決定を受けたが、かくては売買完了までに相当の長期間を要し、且ついわゆる競売屋の餌食となる結果、債権者、債務者雙方に不利益をもたらすものと考え、右代物弁済予約完結権を行使し、昭和三十年十月四日代物弁済を原因として所有権移転登記をなしたのである。従つて、被告井上の右訴外人に対する前記債権は右代物弁済により消滅し、従つて本件抵当権もまた消滅したものというべきである。故に、その後である昭和三十二年三月四日原告においてその主張の残代金及び遅延利息を競売裁判所に支払つても、本件土地の所有権を取得することはできない筋合である。従つて、原告の被告井上、同堀内に対する本訴請求はいずれも失当である。」

と述べ、

なお右抗弁に対する原告主張の(2)ないし(5)に対し

「原告主張の(2)の事実中、代物弁済予約完結権の消滅に関する特約のあつたこと、同(3)の事実中、その主張の二個の権利が選択債権の関係にあつたことは、いずれも否認する。同(4)の事実中、その主張の登記が無効であること同(5)の事実中、代物弁済による所有権取得が無効であることはいずれも争う。」

と述べ、

立証として、証人酒井保の証言、被告井上本人尋問の結果を援用し、甲号各証の成立は認め、同第一号証を利益に援用した。

被告宮地は、本件口頭弁論期日に出頭しなかつた。

理由

一、被告井上、同堀内に対する請求について、

原告主張の(一)、(二)の各事実は、当事者間に争がなく、同(三)の事実中、被告井上が原告主張の日、その主張のように単独で競売申立の取下書を競売裁判所に提出したことは、当事者間に争がなくその余の事実は、右被告両名において明らかに争わないから、これを自白したものとみなされる。同(四)の事実中、冒頭より大阪高等裁判所が原告主張のような決定をなしたまでの事実は、当事者間に争がなく、その余の事実、同(五)の事実中、原告がその主張の日競売裁判所にその主張の残代金及び遅延利息を納付したこと、同(六)の事実中、原告主張の日、右裁判所が原告主張の競売申立取下を原因として競売申立登記の抹消登記を嘱託したことは、いずれも右被告両名において明らかに争わないから、これを自白したものとみなされ、同(六)の事実中、原告主張の日右抹消登記がなされたこと、同(七)の事実中、原告主張の各日、その主張の各原因による各登記がなされたこと及び同(八)の事実は当事者間に争がない。

そこで、まず、右被告両名の抗弁について考えるに、成立に争のない甲第一、五号証、証人酒井保の証言、被告井上秀一本人尋問の結果を綜合すると、被告井上は、昭和二十九年三月三日訴外酒井ヤクから右訴外人が同被告に対し負担していた原告主張の債務担保のため、本件土地につき順位第一番の抵当権の設定を受けた際、右訴外人との間において右訴外人が弁済期に右債務を弁済しないときは同被告は右債務の代物弁済として本件土地所有権を取得し得る旨の代物弁済の予約をなし、同月八日右予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由したこと、その後右訴外人が債務の弁済をしなかつたので、同被告は、本件土地につき一旦抵当権の実行として本件競売の申立をなし、同年八月十六日競売開始決定を受け、爾来競売手続進行中、右訴外人及び同被告は相談の上、抵当権の実行よりも代物弁済の方が雙方にとり利益と考えた結果、昭和三十年十月三日頃同被告は右訴外人に対し本件土地につき代物弁済予約完結の意思表示をなし、同月四日右代物弁済を原因とする所有権移転登記を経由したこと(但し、右登記には登記原因は「昭和二十九年三月三日代物弁済」と登載されているが、右は、前示所有権移転請求権保全仮登記の登記原因が昭和二十九年三月三日代物弁済予約となつており、右仮登記にもとずいて登記されたので、代物弁済の日付を右のように誤つて登載したものと認める。)が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。ところで前示当事者間に争のない事実によれば、原告は本件土地の競売事件において、競売期日である昭和三十年十月二十日最高価競買人となり、同日保証金を納付し、同月二十二日競落許可決定がなされたものであるから、原告は右競売事件においては右昭和三十年十月二十日にはじめて利害関係人となつたわけである。そして、前認定のように、被告井上が酒井に対し代物弁済予約完結の意思表示をした日時は昭和三十年十月三日頃であるところ、当時本件競売事件における利害関係人は、前示甲第一号証、弁論の全趣旨によれば、被告井上及び酒井の両名のみであつたことが認められるので、原告は当時未だ利害関係人でなかつたものである。しかして、競売法による不動産競売手続において、該手続の開始決定が不動産所有者である債務者に送達せられるかまたは競売申立の登記があるか、いずれかの一があるときは競売申立人である債権者のためにその目的である不動産につき差押の効力を生じ爾後不動産所有者は不動産につき担保権者の権利に影響すべき一切の処分行為を禁ぜられ不動産所有者からその所有権その他の権利を取得した第三者は、その権利取得をもつて競売申立人、競落人等に対抗し得ない。しかし、本件におけるように、抵当不動産の競売手続中において、その競売申立人である抵当権者(債権者)及び不動産所有権(債務者)以外に利害関係人のない場合にはその抵当権者(債権者)は、競売手続中にもかかわらず代物弁済により右不動産の所有権を取得し得るものと解する。けだし、右のように、不動産の競売手続中において利害関係人が右両者以外に存しない場合においては、前示差押の効力はもつぱらその抵当権者(債権者)の利益においてのみ存するものと解すべきであるから、抵当権者(債権者)において抵当権の実行によらないで、代物弁済により債権の満足を得んとする意思ならば、競売手続中といえどもその意思どおりさせてよいわけであり、これを制限すべき法律上の必要は全く考えられないからである。そうすると、前認定の事実関係のもとにおいては、被告井上は、右説示により、昭和三十年十月三日頃成立した代物弁済により、訴外酒井ヤクから有効に本件土地所有権を取得し、且つ、同月四日右代物弁済を原因とする所有権移転登記を経由したので、同被告の右訴外人に対する前示債権は右代物弁済により消滅し、従つて、本件抵当権もまた消滅に帰したものというべきである。故に、本件不動産競売事件においては、爾後適法に競売手続は、これを続行し得ない筋合のものであつて、同事件において右抵当権消滅後である昭和三十二年三月四日原告においてその主張の残代金及び遅延利息を競売裁判所に支払つても、競落により本件土地の所有権を取得することはできないものというべきである。

そこで、被告井上、同堀内の右抗弁に対する原告の主張(2)ないし(5)について順次判断しよう。

まず(2)の主張について考究するに、原告主張の抵当権の実行に着手したときは、代物弁済予約完結権は消滅する旨の特約が成立したことにつき、これを認めるに足る証拠は全くないから、右成立を前提とする原告の右主張は採用できない。

次に、(3)の主張について判断するに、前認定のように訴外酒井ヤクは、被告井上に対し本件土地につき抵当権を設定すると共に本件土地による代物弁済の予約をなしたので、同被告は本件土地につき抵当権を行使し得る権利と右予約にもとずく代物弁済予約完結権の二個の権利を有していたのであるが、右両者の法律関係は、二個の給付中、選択によつて決定する一個の給付を目的とする債権であると目することはできないから選択債権ではない。もつとも右両者は、債権者において一方を行使して債権の満足を得れば他方を行使し得ない関係にある。しかしこれは、代物弁済予約完結権を行使すれば債権が消滅し、従つて、抵当権が消滅する結果、抵当権を行使し得なくなるからであり、また、抵当権を行使して競売により債権の一部または全部の満足を得べき段階に至れば、代物弁済予約完結権はその目的を失い、当然消滅するからであつて、債権者が一方を選択することにより必然的に権利がそれのみに限定されるという関係によるものではない。

従つて、右抵当権実行の選択により右予約完結権が当然消滅する旨の原告の主張は採用に値しない。

次に(4)の主張について判断するに、本件土地につき登記原因である、代物弁済の日付を原告主張のとおりとした被告井上のための代物弁済による所有権移転登記の存することは、原告主張のとおりである、しかして右日付が真実に反するものであることは前段認定のとおりであつて、訂正せられるべきものであるが、しかし、右のような日付が登載された事情は前段認定において説明した如くであるから、右日付が真実と反するというだけで、直ちに、右登記全部を無効と断定することは早計である。仮りに無効であるとするも、前段認定のように原告において本件土地につき所有権を有しない以上、右無効を理由に、被告井上、同堀内に対し本訴請求をなすことはできない。故に、原告の右主張もまた採用できない。

次に、(5)の主張について、判断するに、この点については、さきに被告井上、同堀内の抗弁につき判断する際詳細説明したところであつて、これによると原告の右主張の理由ないことは明白である。

以上の次第であるから、被告井上、同堀内に対する原告の本訴請求はいずれも失当である。

そこで最後に、原告の被告堀内に対する予備的請求原因につき考究するに、前示請求の趣旨記載(2)の所有権移転登記が原告主張のように通謀虚偽表示によるものであることについては、これを肯認するに足る証拠はなく、仮に原告主張のとおりであるとするも、前示のように本件土地が原告の所有に属することが認められない以上、右被告に対する本訴請求を認容するに由ない。

二、被告宮地に対する請求について、

被告宮地は本件各口頭弁論期日に出頭しなかつたので原告の主張の第一次的請求原因である事実は同被告においてこれを自白したものとみなされる。そして、右主張事実によると、原告の同被告に対する本訴請求は正当である。

三  よつて、原告の被告宮地に対する本訴請求を認容し、被告井上、同堀内に対する本訴各請求を棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安倍覚)

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